イギリスと言えば、今年始めに起こった大手レコードチェーンHMVの経営破綻が記憶に新しい
(最終的には投資会社Hilcoが買収することで倒産は免れた)。HMVの経営破綻に象徴されるかの
ように、音楽売上の方も好調とは言えない状況に陥っている。売上こそ世界3位に位置している
が、昨対比では-6.1%と他の売上上位国と比べると、その落ち込みは著しい。そんな状況の中、
レコードの売上は順調に伸びている。下のグラフを見て欲しい。
2001年をピークに売上は年を追う毎に下降し、07~08年を境に再び上昇している。売上枚数は
07年の約20万枚から12年には約39万枚と2倍近くまで伸びている。グラフの推移がアメリカと
相似形であることが興味深いが、ここには08年から始まったRecord Store Dayの存在が大きく
関わっていると考えて差し支えないだろう。80年代にイギリス全体で約2,200軒あった独立系
レコードショップは減少を続ける一方で、2009年には最盛期の10分の1近い269軒にまで落ち込
んでいたが、2010年以降に再び店数が増え始めたそうだ。これもRSD効果なのだろうか。そして、
今年7月にはレコード専門の図書館がオープンするなど、明るい話題が増えている。
前にも書いたように、レコード人気が再燃しているのはアメリカ、イギリスに限った話ではない。
国際レコード連盟のレポートによると、昨年の世界全体のレコードの売上げは、1997年以来最高
記録(1億7千700万ドル)に達している。このように近年、世界的に目覚ましい勢いで伸びている
レコード人気だが、まだまだ伸び代は十分にあり、将来的にはCDの売上と並ぶ、あるいはそれ以上
になるかもしれないとの予測もある。
「デジタル・ダウンロードがあるために、CDの衰退は不可避である。10年以内にレコードは
再びフィジカル・フォーマットの有力なポジションを占めるようになるかもしれない」
(イギリスの経済誌The Economist)
(イギリスの経済誌The Economist)
オースティンの独立系レコードショップWaterloo RecordsもThe Economistと同じような見方
をしている。Waterloo
Recordsではレコードが27%、CDが売上の54%を占めているが、
「CDの売上は下がり、レコードは上がっている。近い内に同じくらいの売上になるだろう」と、
バイヤー兼マネジャーのPaulは予測している。
アメリカの調査会社Gracie
ManagementのCEO、Chasson Gracieも「レコードの売上がCDの
売上を超える日も近いかもしれない」という私のツイートに対して、そのチャンスは十分に
あるとリプライしている。Gracie
Managementが行った若者のレコード購入に関する調査では、
衝撃的とも言える数字が出ているが、それは後ほど紹介したい。
「CDはレコード売上の成長率より速いスピードで廃れている。近頃、パッケージ音源を買いたいと思っている人だけが美しいマテリアルを堪能しているが、CDはレコードと同じほど美的感覚には訴えてこない」
(メルボルンのミュージシャンGuy Blackman)
“レコード売上の成長率より速いスピード“というのは、大袈裟に聞こえるが、CDの売上が急速に落ち込んでいるのは確かである。英HMV最高責任者だったSimon FoxはCDは5年以内に姿を消すだろうと見ている。CDが5年以内に店頭からほぼ姿を消し、レコードショップの片隅に置かれる程度の存在になる。それは、全くリアリティの無い荒唐無稽な話ではないと思う。アメリカで2002年に95%占めていたCDのシェアは既に50%を切っている。このままの勢いで落ち込んで行けば、5年後には20%程度のシェアにまで減ったとしても不思議ではない。昨年3月にはソニーが自社最大のCD生産工場を閉鎖するなど、CDの退潮ぶりには歯止めがかからない状態にあるように思えてならない。
俗に言う、企業30年説という言葉がある。CDも誕生から30年が経過するが、とうにピークを過ぎて徐々に衰退の道へと入ってきていることは否定できない。思えば、LPも1948年に第一号が生産され、長らくの間、音楽ファンに愛されてきたが、約30余年後にその地位はCDに明け渡す格好となり、その後レコードはアンダーグラウンドなメディアに転じ、DJや一部のマニアの間で熱狂的に愛されるようになった。そしてCDが一つの時代を閉じようとしている正にその時に、CDの登場によって周縁へと追いやられてしまったレコードが、再び息を吹き返そうとしているのは何とも興味深い現象である。
しかし、なぜ今ここまで急激にアナログレコードの人気が増えているのだろうか。
Forte Wayne Reader紙は、レコード人気の理由を「音がいい」「音を聴くプロセスが全く異なっている」「見た目がカッコいい」「クールな付属品がある」「買うのが楽しい」の5つにまとめている。
一方、ウェブサイトUnified
Manifacturingは「音のクオリティが高い」「ノイズが出る」「懐古的である(年配者にとって)」「触覚的な体験ができる」「収集に向いている」「金銭的な価値が高い」の6つを挙げている
面白いところでは、ウェブサイトRetirementHomes.comが「90年代を通じて、ヒップホップのDJが音響効果を狙うために、ターンテーブルを手で操ってヴァイナルを回したこと」などがある。
カナダのラジオMCでありライターのAlan Crossは、レコードのメリットを以下の10点にまとめている。
1.現在のレコードは、CDが登場した80年代のカスなレコードよりも優れている。
2.180gのレコードは音がいい
3.ターンテーブルのテクノロジーが進化している
4.多くのレコードをコレクトする機会に恵まれている。
5.レコードを聴くことによって通な音楽ファンになれる
6.いまだかつて耳にしたことのない音を聴ける
7.音量戦争に巻き込まれなくて済む
8.アルバムのアートワークやライナーノーツと出会うことが出来る
9.音楽と触れ合うことができる
10.レコードはヒップスターだけのものではない
このように、現在レコードに人気が集まっている理由やメリットは数多く挙げられているが、まずNapster、itunes以降、世界の音楽産業の主流となったデジタル音楽に対するアンチテーゼという側面から、人気の分析をしてみたい。(続)
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