2014年2月5日水曜日

ニューナンブ (5)

Text:Onnyk
盛岡なう4

<菅野修の復活、の前に>

佐藤洋人というドラマーはとにかく真っ直ぐなのである。小細工は無い。ひたすら叩く。満足いく迄叩く。しかし彼は根本的にはジャズドラマーではない。それがどういうことかというと説明は難しいが、とにかくジャズの意識は無い。しかし、森山威雄に憧れている(最初のアイドルはイアン・ペイス)。まあ、それを言ったら私もジャズなどできないが、エヴァンパーカーに憧れていたわけだ。


我々はスタジオで2度程セッションをした。しかし、何かしっくりこない。正直言って佐藤とは話してもあまり接点が無い。彼はとにかくソロで叩くのが好きだった。しかし、どこかでソロライブをやるという考えは一切無かった。その理由を聴くと「お金をかけたくなかった」という。 なるほど、どんなに小さな規模でもライブをやれば、何かとお金はかかるし、終わった後でなんだかんだと飲み食いしたりということになる。佐藤はそれを非常に嫌う。

「音楽だけでいいんですよ、ドラムが叩ければそれでいいんです」
「でもお客さんは必要だったと」
「そうです。だから私はドラムを車に積んで、大きな道路の通っている山の上のほうに行くんです」
「そして?」
「駐車場みたいなところがあるでしょう。そこでセットを組み立てるんです」
「それでソロやっちゃう?」
「ええ、なんとなくお客さんが来たりしますよ」
「でもそれって演奏を聴きにきた人じゃないでしょう」
「それでもいいです。私は自分の叩いているのを録画しますから」
「録画?」
「私は自分で演奏するのを見なければだめなんですよ。演奏はかっこよくなければ駄目ですから」
「かっこよくねえ。どういうのがかっこいいんですか?」
「それはなんとも言えません。でもかっこよく演奏できなければだめなんです」
「音じゃないんですか」
「いや、かっこよければ音もいいはずです」

うーむ、なるほど、そういうことか。私には無い視点だった。だが私は彼の姿勢には距離を感じてしまったのも否めない。当時、私はホヤサンバイスの練習も有り、かなり忙しかった。そしてここに、またとんでもないオファーが来た。

<ステーブベレスフォードがくる!>

英国の即興演奏の異才、スティーヴベレスフォードが来日するというのである。呼んだのは川瀬めぐらさんだ。彼女は吉沢元治さんのマネージメントをやっていた。だからスティーヴは吉沢さんとのデュオでということになる。実は私とスティーヴは長年のペンフレンドであった。それは80年頃からのことだから、十年以上のつきあいになる。私はインカスのレコードを集めていた。

その中で異彩を放っていたのが「ティータイム」という一枚である。即興演奏につきものの緊張感や、緩急の速度感がない。どことなくだらけていて、つかみどころがない。そのピアノを弾いていたのが彼だった。そしてまた、70年代半ばにインカスの後継的なレーベルとして発祥したのがビードレコードだったが、ここにも彼の興味深い活動が録音された。それはアルタレイションズというカルテットであった。彼らは二枚のアルバムを残したが、どちらも全く方向性の掴めない、緩くて、シニカルで、サタイアのある演奏だった。ここに私やゲソは大きな可能性を見いだした、と言ったら大げさになるだろうか。

また、スティーヴは、デレクベイリーの主宰する「カンパニー」のメンバーとして選ばれた。そのため英国の雑誌にインタビューを受け、我々はそれを興味深く読んだ。「自分の足をすくってひっくり返したいのです」。そんな事は不可能に近いが、彼はそれを地で行くような演奏家だった。演奏する楽器もピアノ、ユーフォニアム、トランペット、エレキベース、おもちゃ、小さな電子機器、カシオトーンなど。その彼がソロアルバム「バスオブサプライズ」を出した。ピアノレーベルからのリリースである。これはデヴィッドカニンガムの設立したレーベルだ(カニンガム自身のソロもある)。このスティーブのソロは何とも不思議な断片集。おもちゃ箱のようなレコードで、大好きだ。全然構えていない。テープレコーダーの不調でワウフラッターの強いヘロヘロした録音やら、ホントに風呂の中で遊んでいるような演奏(?)もある。

カニンガムが有名になったのは大ヒットアルバム「フライングリザーズ」である(ラウンジリザーズと間違わないでください)。このレコードの売りは「こんなに安く製作したのに、新鮮なセンスの音ですよ」的な話である。そんなのは若い頃誰でも挑戦しているのだけど。あとは、結構古いR&Bのヒット曲をやってること。「マネー」とか。あとマニアに受けたのはクルトヴァイルの曲や、メンバーにディスヒートや、ニューエイジステッパーズなんかも絡んでいたことだ。

ベレスフォードはカニンガムと、デヴィッドトゥープと組んで、「ジェネラルストライク」というトリオで、実験的ダブをやっていたし、カニンガム抜きでは「アラスカンウィンドウ」というデュオで即興を展開していた。トゥープも面白い存在で、民俗音楽や、黒人音楽史を研究し、自作楽器などで即興をやる人だった。音響彫刻家マックスイーストレイ(ブライアン・イーノのレーベル「オブスキュア」にレコードあり)や、ヒューデイヴィーズ(自作楽器による即興の重要人物で、実験音楽史の研究家)と関わっているほか、前述の「アルタレイションズ」にも参加している。

また、ベレスフォード、トゥープが中心となって編集発行していた雑誌「コリュージョン」は、ダブ、レゲエ、南米の黒人音楽や、英国の即興の資料的価値のあるものだった。ああ、ベレスフォードのことから随分横道に逸れてしまったが、非常に広範に活動しているということを知ってもらいたかったのだ。他にも彼はハンベニンクや、ナイジェルクームスとのデュオや、スリッツのバックメンバーとしても活躍していた。 


ベレスフォードに会えるという喜びで、私は川瀬さんのオファーを受けたのだが、それは当然、吉沢元治さんも一緒という事になる。そこに私は一抹の不安を感じた。つまり吉沢さんはどこまでもストイックなスタイルであり、かなりアヴァンギャルドでも、ジャズの枠からあまり大きくは外れないという印象はある。それに比して、スティーブは最初からつかみ所が無い。なんでもできちゃうタイプである。それと常に悪戯、ユーモアを仕掛けて来るという感じだ。いや、これはこれで面白い組み合わせにはなるだろう。ただ、人は集まらない。これはもう確実だ。

吉沢さんは盛岡には少し縁が有る。盛岡のジャズ喫茶で演奏もしたことがあった。また晩年だが、盛岡のモダンダンスの女性から頼まれて共演しにきたことが2、3度あった。それはまたそれでちょっと議論になったこともある。またローカルな放送局の新年会でソロ演奏したり、画廊でブッチモリスとデュオをしたこともある。そういう人だから集客は容易かというと、難しい。というのは上記のようなライブは企画者自体の、コネ、宣伝力、チケット販売について組織的力があるから、音楽の内容に興味をもって来場とかいう訳ではないのだ。私には全くそういう力が無い。組織 を使う事は、アルハンゲリスクで懲りたし疲れた。


<大友良英もくる!>

川瀬さんにこんな事を話したところ、彼女は「じゃあ、人集めそうな誰か一緒に行けばいいかな。大友さんとか」と言い出した。丁度当時大友良英は、売れ出してきていた。千野秀一さん(この人のこともいずれ書きたい)らと作ったグラウンドゼロとか、自作ギター、ターンテーブルなどの演奏が注目され出したのだ。私が彼を最初に見たのは横浜での、デュオばかり集めたコンサートで、サチコMと出た時だったが、その時はスルド(ラテンパーカッション)を叩いていたと思う。その後、広瀬淳二さん(サックス、自作楽器)と始めた即興デュオ「シランガナンインガイ」が話題になった。

LPも発売してレビューを書いた事もあるし、福島のジャズ喫茶「パスタン」まで聴きに行ったこともある(ここは阿部薫が随分ソロをやったところで録音も残っていたという)。周囲の音楽好きに聴いても「大友さんは聴きたいですねえ!」という声が多かった。そこで川瀬さんに、大友をくわえたトリオで来てもらうよう依頼した。私はスティーブと共演したかったのだが、トリオで来るとなればなかなか難しい。ここでちょっと余計な事を書くと、私の経済状況では、個人的には3人を、東京から招聘するのが限界である。アルハンゲリスクは7名プラス2名だったから組織をでっちあげた。またいずれ書くがニヒリストズパズムバンドも7名(大西あやさんを含む)プラス非常階段(ジョジョ君と美川君のみ)で9名だったが、このときはジョジョ君がかなり優遇してくれたこと、盛岡の日本カナダ友好協会にチケットを買い上げてもらったことで乗り切った。

さて、大友に興味を持つロック系の連中が集まる事を考えて、共演はホヤサンバイスに決めた。デビューである。それと鎌田大介(アルハンゲリスク招聘を強く求めた彼。当時は北朝鮮ウォッチャー、グッズマニアだった。現在は「盛岡タイムス」というローカルな日刊紙の編集長)を、ボーカルにくわえた。彼の歌う「キムジョンイルを讃える歌」をバンドで伴奏してみようと思ったのだ。鎌田は北朝鮮のシンパというのではなく、独裁者に憧れていたのである。しかし編集長になった今、独裁できないのが辛そうだ。独裁者には全ての責任がつきまとうので民主主義より大変なのである。もっとも誰かに責任を押し付けて粛清してしまうという手も有るが。

さて、ここまで書いてかなり迷っている。このままホヤサンバイス、そしてベレスフォード、吉沢、大友のトリオのライブのことを書くべきか、はたまた菅野修を中心としたフリージャズカルテット「ベルアベドン」結成から終焉までを書くべきか。どちらの演奏も「第五列ボックス」に収録されている。ホヤサンバイスは、ルーインズ、メルツバウ、ボアダムズの前座などをやった。ベルアベドンは、ペーターブレッツマン、チャールズゲイルらと共演した。なかなかどちらもいい経験に恵まれたと思う。いずれにしても長くなるので、ここらで今回は切り上げます。(続)

0 件のコメント:

コメントを投稿