2014年4月30日水曜日

Vinyl Experience (10) Record Store Day

Text:堀 史昌



現在、世界中で起こっているレコード人気は、Record Store Day(以下、RSD)を抜きにして語る事はできない。それどころか、RSDこそがレコード人気の立役者に他ならないといっても過言ではない。証拠にRSDの開始と軌を一にするようにレコードの売上は伸びている。実際RSD当日に1日で売れたレコード枚数の最高記録を更新したというデータもある。

RSDとは独立系レコードショップのオーナー達によって2008年にアメリカで始められた、年に一度のイベントである。名乗りさえ上げれば、基本的にはどの国のどのショップでも参加できるオープンソース型のイベントである(海外では大手資本のレコードショップは参加できないようだ)。毎年4月の第3土曜に開催されることが決まっているが、この日には世界各地のレコードショップで様々なアーティストの限定盤レコードが販売され、インストアイベントが盛り上がりを見せている。

このように字面だけで説明しても、RSDがどの程度盛り上がっているのか想像がつかないだろう。RSDの影響力の強さを理解してもらうには、RSDの映像を見てもらうのが手っ取り早いだろう。以下の映像は、カリフォルニアの名物レコードショップ、アメーバでの昨年のRSDの模様だが、開店前にも関わらず目を疑ってしまうほどの長蛇の列が出来ている。
 

ここで、簡単にRSDの歴史、背景について触れておきたい。RSD創設者の一人であり、独立系レコードショップBull Mooseの店員であるChris Brownによれば、RSDの歴史は独立系レコードショップが組合を結成するようになった90年代中盤にまで遡るという。彼らは一緒にマーケティングをするなどしていたが、徐々に共同で仕事をするようになったそうだ。Chrisはその内の一つの組合で議長をしていた。2000年ぐらいからアメリカのレコード業界にかつてないほどの不況が押し寄せた。一説では98年からの10年間で3,000軒ものレコードショップが姿を消したという。そんな状況を象徴するように04年にはアメリカのタワーレコードが廃業し、レコードショップは斜陽産業の一つにまでみなされるようになった。一方で01年にはipodが颯爽と登場し、それまで主流だったCDを蹴落とす破竹の勢いでデジタル音楽は勢力を伸ばしていった。この影響もあり、アメリカのレコードの売上は04年の120万枚から05年に85万枚にまで落ちこんでしまった。

この状況に危機を感じたChrisは当時他のレコードショップ組合の議長であったMichael Kurtzに、レコード業界よりも先に不振にあえいでいた独立系コミックストアが回復する契機となったイベント「Free Comic Book Day」に倣うように提案をする。二人はレコードショップ・オーナー数名に呼びかけて会議を行った。彼らはいかにして人々に音楽を買ってもらうことができるか、あるいは興味をもたせることができるのかディスカッションを行った。MichaelChrisは繁栄している独立系レコードショップも存在するにも関わらず、ネガティブな論調で書き立てるメディアへの対策を講じたいという思いもあったようだ。07年のことである。

それから約2ヶ月後には約200のレコードショップがRSDに参加することが決定した。Michaelはレーベルやアーティストにも参加を促したところ、Paul Mccartneyが最初に応じ、続いてMetallicaTom WaitsWilcoJeff Tweedyいったアーティストも賛同を示した。そして、08年の4月には初となるRSDがアメリカで開催された。参加レコードショップ数は約300、限定盤は10枚という規模で始まったRSDは、現在イギリス、オーストラリア、オランダ、日本など世界各国の約1,700のレコードストアで開催され、限定盤のリリースも約350枚にまで膨らんでいる。

わずか5年程度でRSDを大きく成長させた代表のMichael昨年2月にフランス文化大臣から芸術文化勲章「ナイト」を授与されている。以下は授与された際のMichaelのスピーチである。Billboard.bizから引用する。

RSDだけに関わっている人も、RSDから利益を得ている人もいません。何千ものアーティストやレコード・ストア・オーナーの代わりに音楽ファンの心に喜びと愛を届けるために集まっています。我々は歴史上、初となるワールドワイドな音楽イベントを創ったのです」(引用終わり)

またRSD自体はNARM(全米レコード小売組合)の年次大会でインディペンデント・スピリット賞を受賞している。NARM代表のJim Donioはスピーチで以下のように語った。再び、Billboard.bizから引用する。
 
RSDはフィジカル・フォーマットが未だに音楽ビジネスの重要な部分を担っていることを示す大きな役割を果たしている。独立系レコードストアを代表するRSDの努力、特に毎年開催されているRecord Store Dayのイベントは、独立の精神を体現している。そして高まる注目度と、重要でありながら見過ごされがちな、フィジカルを販売する組織の売上に導かれて、RSDはアーティストとファンに熱狂的に迎えられている」
(引用終わり)

レコード産業からだけでなく、文化大国であるフランスからも高く評価されるようになったRSD。その影響力は独立系レコードショップにとどまらず、レーベル、プレス工場にまで及んでいる。昨年、RSDのためにプレスされたレコードは実に60万枚に上る。MichaelによればRSDの立ち上げ当初レコードの仕入れ代金は3万ドルだったが、今年に至っては700万ドルだという。「僕らはレコード・ビジネスを再始動させたんだ」とMichaelは語る。

ここまで読んでもらえれば分かる通り、RSDは現在のレコード人気に大きく貢献している。だが、RSD限定のレコードを転売して多額の儲けを出す輩は現れるという新たな問題が発生している。例えば、昨年にはBoards of canadaRSD限定12インチがオークションサイトebayにて56万円で落札された。RSDの運営サイドはこのような転売を制限するために、限定盤を仕入れるレコードショップに転売対策を講じるように誓約書にサインをさせる仕組みを取り入れた。この仕組みの成果もあるためかオークションに転売されるレコードは、限定盤全体の1%にまで抑えているらしい。しかし、そうした取り組みにも関わらず、今年のRSDでも転売は収まらなかった。Paul Wellerは限定盤の転売に遺憾の意を表明し、今後RSDには参加しないことを宣言した。また、Hyperbot.comによればイギリスのレコードショップ/レーベル、Rough Tradeのマネージャー、Spencer Hickmanも今年は全体的にRSDが資本主義に突き動かされていたと初めて感じたと漏らしている。

転売という大きな問題を抱えてはいるものの、RSDの盛り上がりぶりはストリーミング配信が浸透し、これまで以上にデジタル音楽の勢いが増している時代においても、アナログレコードを根強く求めるリスナーが多く存在することを良く示している。ちなみに、昨年のアメリカのRSDの模様はフジテレビやテレビ東京などでも放送されたので、日本でも多少は認知度が高まっているかもしれない。日本で行われているRSDはまだまだ英米ほどの盛り上がりを見せてはいないのが現状だが、今年はJet Set下北沢店で70人もの行列が出来るなど、これまでにはなかった現象もみられてきており、来年以降の動きに注目したいところである。(続)

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