Text:堀 史昌
先日、9月にリリースされる予定のElectric Wizardのニューアルバム「Time to die」に収録される楽曲「I am nothing」がオンラインで公開された。この世のものとは思えぬほどヘヴィで歪みきった煉獄のギターがサウンド全体を覆い、Jusはそのギターの背後で「俺は無なのさ」と呟くように歌う。女性ギタリストのLizが加入して10年、そして1stアルバムから在籍していた古巣のレーベルRise Aboveと決裂し、自身のレーベルWitchfinder Recordsを設立するという節目の年に、彼らは新たな次元へと突入したようだ。フロントマンのJus Obornはインタビューで新作は「Dopethrone」よりもヘヴィで邪悪なサウンドだと語っていたが、この「I am nothing」を聴く限り、正に発言通りのサウンドに仕上がっている。
新曲「I am nothing」は、明らかに前作「Black Masses」とは異なるアプローチをとっている。思えば「Black Masses」はとてつもなくヘヴィであると同時に、Electric Wizard史上最もポップなアルバムだったと言ってもいいだろう。アルバムのトップを飾る「Black Mass」からしてライブでシンガロングするためにあるような曲で、私がTwitterでこの曲を紹介した際は「Kula Shakerみたいだ」という感想までもらったことがあるほどだ。
2年前にリリースされた目下の最新EP「Legalize drugs&murder」も正にこのポップ路線を引き継いだ「Black Mass」タイプの楽曲である。しかし、ポップなのは「Black Masses」に始まった話ではない。元来、彼らが有していた要素の一つでもある。Lee Dorianをして、世界で最もヘヴィなバンドと言わしめた傑作2ndアルバム「Come my fanatics…」だって、思わず歌いたくなるようなコーラスが入っていたり、耽美的なギターソロで彩られている場面もある。
しかし、「I am nothing」に至っては、ポップな要素は見当たらない。イントロからフィニッシュまで徹頭徹尾ヘヴィで邪悪なサウンドに徹している。彼らにポップな要素を断ち切らせた要因は一体何だったのだろうか?その一つには初期のEWサウンドの屋台骨を背負ったドラマー、Mark Greeningが再加入したことが挙げられるだろう。昨年、Jusは新作のレコーディングに取り掛かり始めた頃のインタビューでこう発言している。以下、ブログIt's psychedelic babyから引用する。
「そのプロセスは去年から始まっていたが、Mark Greeningと ジャムを始めた時からやっと落ち着いてきた。彼の前のバンドは解散して、もう一度ジャムをしようと話し合ったんだ。それから上手く行っているよ。彼がバンドに戻ってきてからは無意識の内に、より重く、ダークな方向へと向かっているんだ」
しかし、皮肉なことに手数が多く、緩急をつけることによって楽曲にアクセントを加えるMarkらしいドラミングはこの「I am nothing」では聴くことが出来ない。彼は残念ながら新作のレコーディング後に脱退してしまった。Lizに解雇されたとの噂もあるが真相は不明だ。
後はアルバム「Time to die」のリリースを待つばかりだが、国内盤がリリースされでもしない限り、また日本の音楽メディアはこぞって無視を決め込むのだろう。しかし、指を咥えて、この状況を見ていても仕方がない。アルバムがリリースされたら、当ブログでも彼らにインタビューをオファーしてみようと思う。承諾されるかどうかは分からないが。
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