2013年8月10日土曜日

Vinyl Experience(1)

 
文:堀 史昌


「この経済情勢の中でレコードショップなんて開けるわけがない、というのが世間一般の考え方だと思う。でも人々はアナログに回帰しているんだ。特に、レコードにね」


アイダホ州の小さな町モスカウにDeadbeat RecordsというレコードショップをオープンさせたZachary Johnsonは言う。



アメリカでアナログレコードに人気が集まっている。その事に気づいたのは今から3年前の2010年のことだ。それからネットでレコードに関するニュースを調べてみると、 Deadbeat Recordsのような独立系レコードショップに取材した記事や映像を頻繁に目にした。独立系レコードショップとは一言
でいえば、HMVやタワーレコードのような巨大資本による店ではなく、個人が経営するレコードショップのことである。


さらにはRecord Store Day(以下、RSD)というイベントがアメリカを始め、世界各国で盛り上がり
を見せていることも分かった。RSDとは毎年4月の第三週の土曜日に行われるイベントである。
その日にはRSDに参加する世界中のレコードショップが割引セールや限定盤の販売、インストア・
イベントなどを行っている。RSDと独立系レコードショップは、現在のレコード人気を考える上で
欠かすことが出来ない重要な存在となっているので、連載の中で詳しく説明する。


ティーンエイジャーを始めとした若者たちが、レコードに熱を上げているという意外な事実も知った。さらには、このレコード人気に注目しているのは無名なメディアだけではなく、CBSNew York Times、ForbesUSA TodayThe EconomistTimeなどの大手メディアもこぞって取り上げている
ことも分かった。


今年に入ってからは、CMにまでレコードがフィーチャーされている。クレジットカード会社American ExpressCMにニューヨークの独立系レコードショップ、A-1 Recordsがロケで使われたのだ。
設定はレコードの支払いにAmerican Expressのクレジットカードが使われるというものになっている。日本のクレジットカード会社のCMに独立系レコードショップやレコードが登場する場面を想像
してみて欲しい。そう簡単には想像できないだろう。このCMを通じてアメリカでのレコードの人気ぶりがどれほどのもか分かってもらえるのではないか。






私自身は00年代からレコードを買い始め、04年頃からネットを通じて細々とレコードの販売を
していた。だから、レコードには人一倍の愛着を持っている。しかし、DJブームもとうに過ぎ去り、
レコードショップも次々と閉店するこのご時世において、レコードがニッチなメディアに過ぎない
ことは以前から自覚していた。だから、アメリカのマスメディアで次々とレコードの人気が取り上
げられ、売上も飛躍的に伸びているという現象が摩訶不可思議に思えてならなかった。


しかも現代はitunesYoutubespotifyといったデジタル音楽が全盛の時代である。そのような
時代に、その対極とも言えるアナログな音楽メディアであるレコードに再び注目が集まるように
なったのはどうしてだろうか?このことについて考えるとき、思い出すのは著作家の田坂広志氏
が自身の著書で提唱していた「螺旋的法則」である。それは、物事が発展するときには直線的
に発展するのではなく螺旋的に発展する、つまり新しい物が出てくると時には同時に古いものも
復古してくる、というものだ。この法則はデジタル音楽という新しい音楽メディアの台頭と、長らく
忘れ去られていたアナログレコードの復古という、正に今アメリカで巻き起こっている現象にも
当てはまっているように思えてならない。


レコードの人気が回復しているのは決してアメリカだけに限った話ではない。イギリスを始めとしたヨーロッパ、アジア、オーストラリアを含めた全世界的な潮流となっている。まずは一足早くレコード人気に火がついたアメリカ、イギリスのレコード事情について追ってみたい。(続)

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